リヤド報告
今年の4月28日~5月5日のゴールデンウィークを利用してリヤドに入った。リヤド入りしたのはS.A.M代表高橋と中山の2名で、目的は日本刀の販路拡大のため、リヤドの刀剣商に会うためである。私たちは以前、日本刀の研ぎ師の方から、「日本刀の需要が少なく、生活が苦しい若手がいる」という話を聞き、販路拡大の相談を受け、中東の国々に対する販売を考えた。
下記のサウジアラビアの国旗を見ればわかる通り、サウジアラビアは刀剣の国である。冠婚葬祭、日常のあらゆる場面で、男性は刀剣を持って踊る。したがって、刀剣に対する関心は高い。
昨年の4月に代表の高橋がリヤドに入り、AL-AJLAN商店との繋がりができた。今回、真剣を持ち込むことは避けて模擬刀と五月人形の兜を持参した。少しでも日本の刀の文化を理解してもらうためにわかりやすいと思い、持って行った次第である。
店は市街中心部のスークにある小さな間口の店であるが、王宮の真後ろにあたり、直接王宮の側近などが店に来るとのこと。私たちが店にいた時も、皇太子の側近という人物が現れた。
AL-AJLAN商店は、サウジアラビアの正装用の礼服や装飾品、香油などを扱う店である。したがって、正装には欠かせない刀剣類も販売している。店に来た人に刀や兜の説明をしてくれと言われ、説明した。様々な人が訪れ、日本の刀と兜を珍しそうに眺めてゆく。イスラム教では偶像崇拝が禁止されているため「目のあるものは駄目」である。そのため、五月人形は持ち込んでも売ることはできない。しかし、兜は私たちの想像以上に興味を示していた。みんな、「すばらしい」と言って眺めている。「部屋のどこに飾ればよいのか」「被ってもいいのか」などと聞いてくる。どうやら、客間などに飾ることを考えている様子であった。2日目にシャリアらしき人物が現れて刀と兜を丹念に点検した。そして、「これなら売れる」と言っていた。どうやら、売ってもいいという判断が出たらしい。
ほどなくして、周辺のスークを案内すると言われ、スークの商店を案内される。「今度から日本のものを扱う」と言って紹介された。香木や香油を扱う店、シャツの仕立てをする店、貴金属・宝石店などをまわる。どこにいても日本人は珍しいらしく、色々と聞いてくる。ご近所への挨拶回りのような感じだった。サウジの人々は香を炊く。香木を金属製の皿に載せて火をつけて煙の香りを楽しむのである。また、この香りを油にしみこませた香油がOUDである。フランス人がこれをまねて作ったのがオード・トワレ(化粧水)である。
リヤドの店の一日は日本と全く異なる。朝、8時半ころに店を開けてお昼まで営業する。12時から16時までが昼寝の時間。この間はかなり暑く、日中40度以上になるため、全く街は閑散としており、人影はない。また、営業中でも1日5回のお祈りの時間は店を閉めなければならない。わざわざ店を閉め電気を消してモスクに出かけてゆくため、商いがしょっちゅう中断される。
店が開いている間、スークの中心で競りが行われていた。骨董品が並べられ、丸く並べられた椅子に店の主人たちが座り品定めをしている。アラビア/コーヒーを飲みながら商談をしている集団もあった。皆、のんびりとコーヒーを飲んだり水タバコを燻らせながら話しをしている。あくせくする様子は全くなく、この光景を見ていると、タイムスリップをしているような気持ちになる。現在も砂漠の商人の営みが続いていることを感じさせられた。
3日目の昼にリヤドの街を歩いてみたものの、閑散としていた。王宮とモスク前の中央広場に面して旧王宮がある。ここは現在博物館になっており、冷房も効いているため、ここで時間を潰すことにした。
旧王宮は、まだサウード家がこの地を支配する時のままの建物で、王宮にしては非常に小さな城塞である。建国時の戦の跡が生々しく、入り口の扉には弾痕が残っている。健国時の王室がいかに質素な暮らしをしていたのかが偲ばれる。2時頃まで中でビデオを鑑賞したり、ゆっくり展示を見ていたが、職員の姿が全く見えない。どうやら昼休みに入ったらしい。人影のない博物館でのんびりと時間を過ごした。
AL-AJLAN商店では刀を扱っているが、これらは装飾品であり冠婚葬祭の踊りに使うものである。男たちは、この刀を振りかざして踊る。そのため、刀は切れない刀(模擬刀)である。しかしながら、見た目重視で宝石を付けたり装飾を施したりして凝った作りになっている。色々と見せて貰ったが、中にはプラチナでできた刀で、一本150万するものもあった。
ある古老が店に来て私たちと話しをしながら日本刀を眺め、「この刀は切れるのか?」と聞いて来たので、「切れる刀も注文できる」と答えて「買ってくれるか?」と聞いたら「切れる刀を買ったらカミさんが何するか分からない。刀は切れない方がいい」と言われた。奥方が主導権を握っているのはどこも同じなのだ。
今後、AL-AJLAN商店との話し合いで、小さな商売から一つ一つ重ねてゆくことで関係を構築してゆくことをお互いに確認した。私たちは、アラブの商人がどのような商売をしているのかを目の当たりにして日本のシステム化された商業活動との違いを考えさせられた。ただ、お互いの文化の違いを認識してやり取りすることが交流の第一歩である。聞くところによれば、サウジは王族だけでも1万5千人いるそうである。日本の文化理解の一環として刀が売れることを願ってやまない。
文責 中山
この報告は6月25日(土)の第二回アジア文化危機フォーラムで行った報告をもとに作成したものです。